当研究室の創設者である坂村健本学名誉教授がプロジェクトリーダとして研究開発した「TRON電脳住宅」がIEEEにより(Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子学会)IEEEマイルストーンとして認定を受けました。2023年5月にはTRONリアルタイムOSファミリーが認定されており(注1)、2年連続の快挙となった。
注1 )https://www.tron.org/ja/ieee-milestone/
IEEEマイルストーンは、IEEEの広範な活動分野である電気・電子の分野において達成された画期的なイノベーションの中で、開発から少なくとも 25年以上経過し、社会や産業の発展に多大な貢献をした歴史的業績を認定する制度です。
IEEEマイルストーンの贈呈式は、2024年11月27日(金)に開催されました。なお、IEEEマイルストーンの認定を記念して授与されるブロンズ銘板は、東京大学本郷キャンパスで、今後一般展示を行います。
TRON電脳住宅は、35年近く遡ること1989年12月に竣工されました。また認定には広く情報が公開されている必要がありますが、その点についても、日本はもちろんのこと、海外でも米Popular Science誌やIEEE MICRO誌を含む複数の雑誌、学会誌に掲載され、BBC、CNNなどでも報道されました。1990年4月から公開され、約1年間で延べ1万人が見学。スマートハウスの起源として、今でもこのTRON電脳住宅が多く言及されています。
「スマートハウス」という言葉が使われ出したのは1980年代ですが、ヨーロッパや米国でも類似のプロジェクトがいくつか生まれました。しかし、それらは単発の研究開発にとどまり本格的に商品化するところまでは行かなかったようです。一方、TRON電脳住宅では、集まった日本の住宅関連メーカーが将来の商品化につながる研究開発を行い、TRON電脳住宅で実装した後、個々に商品化も行いました。
実装されその後一般化した技術には、ウォシュレット/ヘルスケアモニター、ヘルスケアデータの送信/シーン照明/人感足元灯/一括警報設定/DSP音場エミュレーション/植物の自動灌水/透明度を変えられる液晶ガラス窓/屋内のセンサーネットワーク(環境、温度)など多岐にわたり、建築界・家電業界に大きな刺激を与えることとなりました。
「TRON電脳住宅」は役目を終え取り壊されたが、その後も、「トヨタ夢の住宅PAPI」(2004年)、「台湾u-home」(2010年)、「東京大学 ダイワユビキタス学術研究館」(2014年)、「東洋大学 INIAD HUB-1」(2017年)、「Open Smart URスタートアップモデル住戸」(2019年)、「Open Smart UR生活モニタリング住戸」(2022年)などに発展しました。ほかにも多くの建築物で成果が使われ、建築業界の発展に寄与しました。
今回の認定理由の全文を引用します。
“The first TRON Intelligent House was based on the concept of a Highly Functionally Distributed System (HFDS) as proposed in 1987. Built in Tokyo in 1989 using about 1,000 networked computers to implement the Internet of Things (IoT), its advanced human-machine interface (HMI) provided ‘ubiquitous computing’ before that term was coined in 1991. Feedback by TRON’s residents helped mature the HFDS design, showing how to live in an IoT environment.”
(参考訳:最初のTRON電脳住宅は、1987年に提案した「超機能分散システム」(HFDS:Highly Functionally Distributed System)の概念に基づいて建てられた。1989年に東京で完成したこの住宅では、約1,000台のコンピュータがネットワークにつながれ、今でいう「モノのインターネット(IoT)」を実現した。また、先進的なヒューマンマシンインタフェース(Human Machine Interface)を備え、「ユビキタスコンピューティング」という言葉が生まれる1991年より前にその概念を実現した。TRON電脳住宅に住む人々からの意見を取り入れることで、HFDSの設計はさらに改良され、IoT環境での暮らし方を提案してきた。)
2024年11月27日
「この度、TRON電脳住宅が、IEEEマイルストーンに認定されましたこと、大変おめでたく存じます。このTRON電脳住宅のプロジェクトをリードされました、坂村健先生にお喜びをもうしあげるとともに、この先駆的な研究が、この東京大学でなされたことを、大変光栄に感じております。
TRON電脳住宅は1989年に竣工されましたので、35年前のことになります。当時、私自身はまだ新米の大学院生でしたが、坂村先生の陣頭指揮の下、諸先輩方が熱心に取り組んでいるお姿や、六本木に建設されていた住宅の姿を鮮明に覚えております。
今回IEEEマイルストーンの2つ目の銘板を、この建物の1階に設置いただけるとのこと、大変うれしく存じます。今、東京大学で研究教育を行っている私たちは、この銘板に恥じぬよう、これからも日々研究教育活動に精進いたしたいと思います。」
越塚 登
大学院情報学環・副学環長
ダイワユビキタス学術研究館・館長
補足
(1) IEEE
IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子学会)は、人類の利益のために技術を進歩させることを目的とした世界最大の技術専門組織です。IEEEとIEEEメンバーは頻繁に引用される出版物、国際会議、標準規格(スタンダード)、および専門的・教育的活動を通じ、航空宇宙システム、コンピュータ、テレコミュニケーションから、バイオメディカル・エンジニアリング、電力、コンシューマー・エレクトロニクスに至るまで、幅広い分野で信頼されています。
IEEEについて、詳しくは次のURLをご覧ください。
https://www.ieee.org/
(2) IEEE Milestone
電気電子工学とコンピューティングプログラムにおけるIEEE Milestone は、IEEEに関連するあらゆる分野における重要な技術的業績を称えるものです。それはIEEE History Committeeのプログラムで、IEEE History Center を通じて運営されています。IEEE Milestoneは、ユニークな製品、サービス、重要な論文、特許に見られる人類の利益につながる技術革新と卓越性を評価するものです。
IEEEは、1984年の100周年記念式典に合わせて、IEEEが代表する専門職や技術を生んで育てた巨人の世紀 (Century of Giants)の功績を称えるために、1983年にMilestones Programを設立しました。
各Milestoneは、IEEEに代表される技術分野において、25年以上前に誕生し、地域での広がり以上の影響を与えた重要な技術的業績を認定するものです。現在までに、世界中で230以上のMilestoneが承認され、贈呈されています。
IEEE Milestone について、詳しくは次のURLをご覧ください。
https://ieeemilestones.ethw.org/Main_Page
(3) TRONプロジェクト
TRONプロジェクトは、1984年に発足した産学共同のコンピュータ・アーキテクチャの開発プロジェクトです。坂村健 本学名誉教授をプロジェクトリーダーとし、組込みシステム向けのリアルタイムOSとその開発環境整備からIoTネットワークまで、様々なコンピュータ分野の開発を進めています。
TRONプロジェクトの成果は、自動車のエンジン制御、デジタルカメラや携帯電話などの情報家電といった民生分野の製品から、工場内の機械制御といった産業分野まで、さまざまな分野の組込みシステムに世界中で幅広く利用されています。
TRON プロジェクトはオープンアーキテクチャを標榜しプロジェクトの活動を行ってきました。また、国際標準化団体に積極的に技術仕様を標準案として提案し、基盤技術の国際標準化に貢献しています。
TRONプロジェクトについて、詳しくは次のURLをご覧ください
https://www.tron.org/
以上